hujan

晴天の空に降る雨
第2話

渋滞

車はさらに北上して、棚田で有名なテガラランを通過する。一番混雑するチェキンガンでは大型バスも乗り付けており、たくさんの中華系の人たちや日本人、さらに個人旅行の欧米人やローカルの人間など、実に様々な人種がこの景色を堪能しに来ている。今日はその手前の寺院で祭礼があったこともあり、チェキンガンの村の入り口で渋滞を起こしている。森嶋たちの車もなかなか前に進まない。
「時間通りにはつけると思うんだけどね、この暑さで渋滞じゃいやになっちゃうな。」車内の静まり返った空気を少しでも循環しようと森嶋は話し始めた。「せめて風だけでも吹いてくれれば助かるのにこういう時に限って、ね。」「大丈夫ですよ。こうやって案内してもらえるだけでありがたいですから。」綾香も棚田の広がる風景に気持ちが高ぶったのか少し上機嫌に見えた。もしくは目的地が近いことによるそれかもしれない。「一応もう一度説明だけしておくけど今から向かうバリアン、つまりシャーマンみたいな人なんだけど、俺自身も会ったことはないからね。ほんとにその、本物かどうかはわからないよ。」そういいながら森嶋はバックミラー越しに綾香の様子に目をやる。綾香は唇を強く結びながら外の景色を見つめていた。森嶋が続けて話そうとすると綾香がゆっくりと口を開いた。「大丈夫です。わたしもそれほど信じているわけではないですから。あの人の意思を感じるなんてメールで書いちゃいましたが、私がただそう思いたいだけかもしれないですし。」綾香から突然のメールが届いたのは一か月前のことだ。意外な差出人に驚いたがそれ以上にこのアドレスをどこから知ったのかと驚いた。「まあもう少しすれば着くからね。あまり考えずに行ってみよう。ほんとにあんなことになって気持ちの整理がつかないのは俺も一緒だもの。少しでも何かわかるのかもしれない。」やがて車が少しづつ進みだし、再び目的地へと走り出した。この先のスバトゥという村にそのバリアンは住んでいる。
「その…、バリっていうのは本当にそういう所なんですか?」綾香が森嶋に訊ねた。「連絡させてもらってから色々なバリの本を読んだんですけど、見えない世界というかそういう話がすごく書いてありました」「見えない世界か、俺自身も来た時は半信半疑だったけどね」森嶋が答える。「今は?」「信じるというか当たり前に思うようになってるな。」「そうなんですね、わたしはまだわからないなあ…見えない世界。」「俺も一つ聞いていい?」森嶋はまたバックミラー越しに彼女を見た。今度は目が合った。
「兄貴は、どんな人だった?」
 

続く