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ウブドより愛をこめすぎず 第5話

笑顔の彼女

 夜の街はどこでも刺激的なものだ。道に沿って並ぶ店内の照明は内側からその形を浮かび上がらせ、軒先に灯った明かりが歩く道のりを照らす。その中にいるだけで少し浮き足立ってくる。ここウブドの街も夜遊びをするようなところではないが、やはり例外ではない。しかし行きつけのワルンに腰かけた南田幾三の心は重く沈んでいた。
「あー・・・なんでまたあんなことに…。」冷えたビンタンビールをジョッキで流し込みながら深くため息をついた。昼間にバイクで転倒した際にできた擦り傷がズキズキと痛む。道端に急に現れた砂山にタイヤがとられて、あっという間の出来事だった。
「フフフ、イクゾーサン、ついてないねー。」いつもバリに来たらなにかと世話になっているプトゥもビールを口にしながら声をかける。「だって、飛行機は遅れて着いちゃうでしょ、そのせいで迎えに来てたドライバーは帰っちゃうでしょ、はっはっは、しかもトランクは行方不明で、宿に着いたら停電でシャワーもできない。それで今日の転倒だもん、一度お祓いに行った方がいいよー。」さっきからしきりにブラックマジックにでもかかってるんじゃないのかと心配半分、からかい半分で言ってくる。「今回は大チャレンジするつもりでこっち来てるんだから縁起でもないこと言わないでよ。それなりに覚悟決めてんだから!」
「まー日本で言う厄落とし?とも考えられるよねー。」日本で働いたこともあるプトゥは縁起やら厄落としなんて言葉を使いこなしながら南田を慰めてくれる。彼と出会っていなければそもそもバリでお店を出すなんて思いもしなかった。
「でも安物のズボンなんてやっぱ買うんじゃなかったな…、いくら荷物が手元にないって言ったってさ。」
「そりゃあ二万ルピーの短パンだもん、バイクでこけたら破けちゃうよね。もう少し高いのにするかせめてパンツぐらいはやっぱ買った方がよかったんじゃない?フフフ。」今となっては何もかもその通りでノーパンで安物のズボンはいて転倒すれば当然の結果かもしれない。
「でもあの女の人、マユミさんっていったっけ?こっちに長く住んでる人なの?」
「おー?気になる?あの人はちょくちょく見かけるね~、どっかのホテルに勤めてるはずだけど残念。彼氏もしっかりいるからね。」
「あれだけ股間をさらした相手に変な気をおこすはずないじゃない。」そういいながら南田は股間を見るなり噴き出した彼女の日に焼けた笑顔を思い出していた。

つづく