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ウブドより愛をこめすぎず 第7話

路上の犬

 「ミノルさんはこちらで何をされてるんですか?」少しぬるくなったビールに口をつけながら南田は聞いた。「俺?俺はね、詐欺師。人をだまして飯食ってんの。」「えっ!?」「ふははは!南田君、素直だね。嘘に決まってるじゃない。詐欺師だとしたら素性を明かすわけないでしょ。俺はこっちで商売してるの。輸出業になるのかな?あれ?日本人が日本に送ってるんだから輸入業?もう乳業でもいいや。ソフトクリームも作っちゃうか?」返答に窮しながら、海外に住む人間と言うのはやはり変わってると南田は思った。
 「で?さっきちょろっと聞こえたんだけど、南田君はこっちでお店でもやろうと思ってるの?」突然話を振られて一瞬言葉に詰まる。「仕事の話だから無理には聞かないけど、長く住んでる分アドバイスくらいできると思うよ?」と人懐こい笑みでミノルは語りかけてくる。警戒すべきだろうか、それとも…。一瞬迷いながらも南田はハノマン通りに見つかった店舗物件のことを話しだした。
 「なるほどね、その値段でハノマン通りならたしかに格安だ。南田さん、ラッキーだね。ラッキーストライクだね。」店員に追加の氷を注文してミノルは話を続けた。夜も十一時を回るとお店にいる客は二人だけだ。若い女性店員は面倒臭そうにキッチンへと入っていった。「でもね、その値段で出すってことは逆に裏があると考えなきゃいけないかもな。ここは海外、日本じゃないからね。さっきのバリ人、本当に信用できるの?」「もちろんです!彼とは長い付き合いでいつもよくしてくれますし、わざわざ空港まで迎えにも来てくれるんですから。」友達をけなされたような気がして南田は少し苛立った。「でも彼の生活をつぶさに見てるわけじゃないでしょ。旅行で来た時に一、二週間一緒にいるだけ。それで彼の言うことを鵜呑みにしちゃうのは危険だと思うけどなあ。」と真剣な面持ちで南田に言い返してきた。「アドバイスは嬉しいですけど、彼は大丈夫です。彼をよく知らないのにそんな言い方は…。」「ごめんごめん!南田さんの友達をけなすつもりはなかったんだけど、気を悪くさせちゃったね。ただの老婆心ってやつだから。ババ心ね。おれジジイだけど。」「すいません、僕こそムキになっちゃって…。」「まあ、悪い人ばかりじゃ当然ないしね。うん、もし困ったら電話しておいで。こうやってせっかく知り合ったことだし、力になるよ。力うどん好きだし。知らない?力うどん?」店員があからさまにテーブルの上を片づけだし、居心地の悪くなった二人は連絡先を交換してそれぞれ家路につく。静まり返った夜道では数頭のバリ犬がじゃれあっていた。

つづく